通りがかりの看護師さん

もうずいぶん昔のことなので、ほとんどおぼろげにしか覚えていませんが、旅先で看護師さんにお世話になったことがありました。
私の住まいは九州ですが、初めて東京へ家族旅行をしたときのことです。おそらく5~6歳くらいだったと思います。家族で旅行できるのがうれしくて、しかも飛行機に乗れるのがうれしすぎて、いやがおうでもテンションが上がっていました。まだ子供なので、自制がきかず、うれしい気持ちのおもむくまま、飛んだり跳ねたりしていました。
どうして東京だったのか、東京へ行ってどこを観光したのか、残念なことに全く覚えていません。ホテルのベッドのバネがすごくて、とにかくジャンプしたのを覚えているくらいです。
そういえば、小学1年生と幼稚園年中組の姪っ子たちを連れて、家族みんなで旅行したとき、「何が楽しかった?」と聞いたら「ホテルでお土産を買ったこと」と口をそろえて言っていました。子供ってそんなものなのかもしれませんね。いろんな観光地を巡ったのに、残っている思い出がホテルの売店・・・。
私の話に戻りますが、大した思い出も作らないまま、それでもなぜか楽しい時間を過ごし、いよいよ帰ることになりました。帰りの羽田空港。そこでも私はまだ、飛んだりはねたり、駆け回ったりしていました。両親は空港内のカフェに座っていました。私のテンションは衰えることを知らず、そんな私を両親は眺めていましたが、その時、鼻に異変を感じました。なんだか温かい液体がすーっと出てきたのです。「?」と思って拭ってみると指が真っ赤!鼻血でした。びっくりして母に「お母さん・・・」と顔を見てもらうと、母がびっくりして「鼻血!あんた、はしゃぎすぎたからよ!」と怒られました。
そこにきれいなお姉さんが通りがかりました。お姉さんはその様子を見て「あらあら」と、おしぼりで顔をふいてくれました。「おとなしくしておけば、自然に止まるよ。」と、鼻にティッシュを詰めながら介抱してくれました。「まあまあ、すみません。」と両親は恐縮していました。お姉さんは「いえいえ。私、看護師なんです。」とおっしゃっていたのを覚えています。確か、都心で看護師の求人募集を探していてその日は面接を受けに地方から出てきていたというようなことを母と話していたような気がします。
その後お姉さんはその場をすぐに立ち去っていかれましたが、私は生まれて初めての鼻血ショックで呆然としてしまって、お礼も言えませんでした。そのお姉さんのおかげもあり、やがて鼻血は止まって、無事に帰りの便へ乗ることができました。
病院の外へ出ても看護精神を忘れずに介抱してくださった看護師さん。顔も覚えていませんが、その優しさはいつまでも良い思い出として残っています。